| 越南112号の特記すべき特徴 |
| 「越路早生」「ホウネンワセ」に比し耐倒伏性,いもち病抵抗性,収量性が優り「越路早生」に比し穂発芽性が難である。また登熟歩合が高く,千粒重もこれらの品種より重くて,品質,食味もそん色ない。 |
| 鹿児島県で奨励品種に採用する理由 |
| 穂発芽易で,いもち病と倒伏に弱く,収量性,品質の不安定な「越路早生」に代え,本土の早期栽培地帯で穂発芽し難く,いもち病に強い,安定多収,良質品種として普及をはかる。 |
| 普及見込地帯および対象品種 |
| a 普及見込地帯
熊毛および大島を除く早期栽培地帯 |
| 育成経過 |
| 「越南112号」は昭和40年,農林省北陸農業試験場において「コシヒカリ」を母とし「しなのひかり」を父として人工交配を行い,翌41年にF1を温室で(春作),F2を苗代放置で栽培した。昭和42年にその雑種種子を福井県農業試験場(農林省指定試験地)が譲りうけ,以後同場において系統育種法により選抜固定をはかり,昭和48年度より「越南112号」の系統名をつけて関係府県に配付し,地方的適否をたしかめてきたもので,昭和53年度で雑種第14代である。 |
| 形態的特性 |
| 移植時の苗丈は「ホウネンワセ」に比しやや短く,葉色やや濃く,葉巾は中位で葉先やや垂れるが,葉身は比較的直立する。苗代日数感応度は「ホウネンワセ」程度で,初期伸長性は「トヨニシキ」にやや類似する。分けつ期の草丈は「ホウネンワセ」よりやや長く,「トヨニシキ」程度で,「トドロキワセ」「越路早生」に比しやや短い。生育初期は葉先や下葉がやや垂れるが,最高分けつ期以降は葉身が次第に立ち気味となり,出穂直前の草状は葉身が立ち止葉は直立して良型となる。
稈長は「ホウネンワセ」に比し同程度か僅かに長いが,「越路早生」に比し短く,「トヨニシキ」「トドロキワセ」程度かやや短い。穂長は「ホウネンワセ」「トドロキワセ」「越路早生」より短く,穂数は「ホウネンワセ」よりやや少ない偏穂数型である。一穂着粒数は「越路早生」よりやや少ないが「ホウネンワセ」「トドロキワセ」よりやや多く粒着は中密で芒がなく,ふ先色は白く,脱粒性は難である。 玄米の粒形は「ホウネンワセ」「越路早生」よりやや厚みをおびた中粒で,千粒重は「ホウネンワセ」「越路早生」よりやや重く中位である。 玄米品質は「トドロキワセ」「ササニシキ」にやや優り「コシヒカリ」に類似する。年によりやや腹白を生じ,光沢の劣ることがあり,「ホウネンワセ」「越路早生」に比し同程度かやや劣る傾向がある。 搗精歩合は「ホウネンワセ」「トドロキワセ」「ササニシキ」よりやや高く,胚芽の脱落性もこれらの品種程度かやや落ちやすいようで,搗精時間も比較的早い。 食味は「コシヒカリ」に比しやや劣るが,「トヨニシキ」に比し良く,「ホウネンワセ」にやや優り「越路早生」「トドロキワセ」程度に良い。 |
| 生態的特性 |
| 「ホウネンワセ」に比し出穂期は1日,成熟期は3~4日程度晩い育成地では早生に属する粳種である。
稈の太さは「トヨニシキ」程度で,耐倒伏性は「トヨニシキ」に比しやや劣るが,「ホウネンワセ」「越路早生」より明らかに強く,「トドロキワセ」よりやや強い。 いもち病抵抗性遺伝子はPi-iをもつと推定され,葉・穂いもち病ともに「ホウネンワセ」「越路早生」「トヨニシキ」「イナバワセ」「藤坂5号」「しなのひかり」より強く「トドロキワセ」類似の抵抗性を示す。 白葉枯病抵抗性は「ササニシキ」程度の弱に属し,紋枯病抵抗性も「ホウネンワセ」程度で「越路早生」に比し弱い。 枯上りはやや多いが「ホウネンワセ」に比し少く,熟色は鮮れいである。 カラバエ耐虫性はやや強い程度である。 耐冷性は遅延型,障害型ともに「ホウネンワセ」程度で中ないしやや弱とみられる。 穂発芽性は「コシヒカリ」に比し僅かにしやすいが,「トヨニシキ」「越路早生」より明らかにし難く,「ホウネンワセ」「トドロキワセ」程度で難ないしやや難に属する。 登熟性は「ホウネンワセ」「トドロキワセ」「コシヒカリ」より明らかに優り,「越路早生」に比しても同程度かやや良い。また籾摺歩合が高く,くず米の発生も少ない。 収量性は「ホウネンワセ」「越路早生」に優り,「トドロキワセ」「トヨニシキ」程度で高い。 |
| 鹿児島県において奨励品種に採用しようとする理由 |
| 鹿児島県における早期水稲の栽培面積9,390haで,そのうち「越路早生」が本土と熊毛で61%「コシヒカリ」が本土で28%栽培され,この2品種で粳の大部分を占めている。
栽培面積の多い「越路早生」は良質で食味は良いが,いもち病に弱く,穂発芽しやすいうえに耐倒伏性が劣り,収量性が低いなど栽培上の欠点が多い。また「コシヒカリ」は美味,良質で穂発芽性は難であるが「越路早生」に比しても倒伏に弱く,葉いもち病の発生も多い。 このように鹿児島県の早期の主要品種は良質であるが安全性が劣り,早期栽培の収量が低く,また不安定である大きな要因となっている。ちなみに早期水稲の平年収量は326kgで,普通期水稲の398kgに比しかなり低い。 また本来良質である「越路早生」は年により倒伏や穂発芽の障害をうけて,品質不良となり,上位等級米の少いこともしばしば認められる。更に最近では両品種とも倒伏しやすいため,コンバイン等の機械化収穫の面でも支障をきたすことが多く,「越路早生」「コシヒカリ」に代わる安全性の高い,多収,強稈,良質品種が強く要望されている。 「越南112号」は「越路早生」「コシヒカリ」程度の熟期で,鹿児島県の早期水稲栽培では中生に属する。耐倒伏性は「越路早生」よりかなり強く,穂発芽性は難である。いもち病抵抗性は「越路早生」「コシヒカリ」より明らかに強く,白葉枯病には「越路早生」並で殆ど発病が認められない。紋枯病にやや弱いが,一般には「越路早生」「コシヒカリ」程度である。収量性が高く,品質,食味は「コシヒカリ」「越路早生」程度で,良好である。登熟歩合は「コシヒカリ」より高く,「越路早生」程度かやや優り,搗精歩合はこれ等両品種並みで高い。過去5ヶ年の成績を総合しても安全性が高く,多収,良質であるので,主に「越南早生」を対象に早期水稲の奨励品種に採用したい。 |
| 配付しうる種子量 |
| 系統採種 11.5kg
普通採種 41.5kg 計 53.0kg |
| 栽培適地および奨励品種採用予定県 |
| 1) 適 地
東山および南北陸で,かって「しなのひかり」を栽培して,品質,食味が不評のため,栽培を中止した地帯,ならびに南九州とくに鹿児島県下の早期栽培に適する。 2) 奨励品種採用予定県 鹿児島県 普及見込面積 4,800ha |
| 栽培上の注意(鹿児島県) |
| 1.耐倒伏性はかなり強いが極強でないので極端な多肥栽培はさけること。
2.紋枯病に弱く,局部的に多発して倒伏の原因となることがあるので防除に留意する。 3.刈おくれると茶米が増加し品質の低下することがあるので適期に刈取ること。 4.いもち病に強いが菌系によっては侵されることがあるので適期防除に留意する。 |
| 栽培上の注意 |
| 1) 稈はかなり強いが,やや伸びやすいので極端な多肥栽培はさけること。
2) いもち病抵抗性は「トドロキワセ」程度でやや強いが,菌系によっては侵されるので適期防除につとめる。 3) 白葉枯病,紋枯病に弱いので適期防除に留意する。 4) 耐冷性は「ホウネンワセ」程度で充分とはいえないので山間高冷地には不適である。 5) 刈りおくれにより品質の低下することがあるので,良質米生産上適期刈りを励行する。 |