| 序 |
| 水稲の優良品種を育成せんが為本省においては昭和2年度より気候土質等により全国を8区に分ち、各区毎に1地方農事試験場を指定し経費の全額を交付して本省農事試験場を枢軸とし相互に密接なる連絡を保ちつつ試験を施行するの組織を採れり。即ち本省農事試験場においては多数品種に付き人工交配を行うと共に雑種初期世代の処理を行いその有望と認むる雑種を指定地方農事試験場に配付し、指定地方農事試験場においてはこれが地方的適応性の検定に関する試験を行いつつ固定を図り、かくして育成したる優良品種に対しては本省においてこれに新たなる品種名を付することとせり。しかして本組織により育成せる優良新品種は既に38品種に及べり。その内北海道農業試験場における本省指定水稲新品種育成試験地において昭和16年6月育成せる「水稲農林20号」の特性並び成績の概要に付きこれを印刷に付することとせり。
昭和18年3月 農林省農政局 |
| 来歴並びに育成経過 |
| 「水稲農林20号」は北海道農業試験場上川支場内における農林省指定水稲新品種育成試験において昭和7年に「水稲農林1号」(新潟県原産)を母とし「胆振早稲」を父として人工交配を行い、爾来選抜固定を図り育成せるものにして、昭和12年4月以降は「昭12-16A」なる仮称名をもって、更に昭和15年4月以降は「北海86号」なる系統名をもって道内各地にこれが種子を配付して地方的適否を確め、昭和16年4月「水稲農林20号」なる品種名を付せるものなり。
これが育成経過の概要次の如し。 |
| 特性概要 |
| 「水稲農林20号」は「走坊主2号」に比すれば出穂並びに成熟やや晩きも「富国」並びに「坊主5号」に比すれば約4日内外早熟にして、「早生富国」及び「坊主6号」位の早さの早生粳種なり。
稈長は「早生富国」ないし「富国」或は「走坊主2号」ないし「坊主6号」程度にして早生種としては中位に属し、「坊主5号」に比すれば短きも、草状極めて良好なり。 分蘗は「富国」ないし「早生富国」程度にして中位に属し、「走坊主2号」並びに「坊主5号」に比すれば多く、株張り良好なり。 稈の太さは中位にしてその質は「走坊主2号」並びに「坊主5号」の如く粗剛ならずして強靭なれば藁利用上有利なるべく、又倒伏難にして耐肥性並びに稲熱病の耐病性強く特に耐病性程度は従来品種に比し格段の相違ありて「水稲農林15号」に匹敵するをもって安全性に富むものと認む。穂型は太く短く、粒甚だ密にして稔実性高く整一、ふ色鮮黄白色にしてふ先紅色を呈するをもって多品種との識別比較的容易なり。 又本種は発芽並びに稚苗の生育良好にして速く、葉長、葉幅並びに葉色等は両親の中間性を表わし「富国」並びに「早生富国」よりは幅広く、濃く透明色を呈し「走坊主2号」よりは幅広く淡色、垂状を呈し、「坊主6号」並びに「坊主5号」よりは幅狭く、濃色、やや直立するをもって識別し易かるべし。 玄米の形状は中粒の短にして「早生富国」並びに「富国」に比しやや小粒なれども豊満にして飴色濃く、黒蝕米、銹米等の如き汚米の混入少なく粒揃い色沢共に良好なれば品質優り検査等級の如きも上位なり。特に温床苗移植栽培においてこの傾向顕著なり。食味は一般の嗜好に適し道産米として著しく粘気に富み風味佳良にして府県産米に匹敵するとの好評あり。本種の収量、早生粳種として極多収に属し、試験成績に徴するも現在早生粳種として最多収を示す「早生富国」に比して2割内外の増収を示し、更に中生種の最多収種にして作付面積の首位を占むる「富国」に比し優るとも劣らざる多収を示せり。特に肥沃地における普通地に対する、或は温床苗移植栽培の直播栽培に対する増収率顕著なり。 これを要するに本種は既存の早生型奨励品種よりは遥かに多収にして草状並びに品質良く、生育旺盛にして耐肥性ならびに耐病性強く安全性に富み、気候、土地、耕種法等に対する適応範囲広く、中生種の代表的奨励品種たる「富国」及び「坊主5号」等に敢えて劣らざる実用性を有し、前述の如きその特性の跛行適ならざる点より考察すれば正に稲作期間短く必然的に早生種を必要とする道北地方のみならず、稲作期間の気候に恵まるる上川、空知等の如き中生種地帯及び瀬棚、胆振等の如き道南の中晩生種地帯にも品種の早晩性配合上好適するところ多しと認む。 |
| 品質調査成績 |
| 「水稲農林20号」は道内における普通一般品種に比較し良質にして精白歩合高し。食味は粘気に富み色沢並びに風味良好にして従来品種に優敢て府県産品種の風味に遜色なしとの概評を得たり。 |