関東飼215号の
 本系統は温暖地では極晩生に属する水稲粳種で、長稈で茎葉多収型の稲発酵粗飼料向き系統である。玄米収量は劣るが、地上部全重が多収で、いもち病圃場抵抗性が強い。


命名登録を申請しようとする理由
 我が国では、乾草や稲わらといった粗飼料の自給率が低いことから、自給粗飼料生産の向上が求められている。しかし、夏に降水量の多い湿潤な気候風土では、トウモロコシ等の畑作物である飼料作物の生産に適した圃場には限界があるため、水田における飼料生産の拡大が必要とされている。一方水田では、米の生産過剰による需給調整のための生産調整が全国に渡って広い面積で行われており、水田の有効利用の面からも水田への飼料向き水稲の導入は有効と考えられている。さらに、貯水力等の水田の機能維持を図る目的でも、稲を発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)として利用する飼料イネの生産が進められている。
 子実と茎葉をサイレージ化する稲発酵粗飼料では、子実と茎葉を含めた全重の多収性が重要である。また、生産コストの削減と、直接牛に給与するため、農薬の使用を削減可能とする耐病性の強い飼料イネが求められている。稲発酵粗飼料の農家での給与においては、未消化籾が40%に達する場合があり、問題視されている。そこで、いもち病に強く、籾収量によらずに茎葉重により可消化養分総量(Total digestible nutrients, TDN)が高くなる品種が望まれている。
 「関東飼215号」は、いもち病に強く、籾収量によらずに茎葉重によりTDN収量が高くなる特性を有し、埼玉県の稲麦二毛作地帯で有望視されている。また、畜産草地研究所、地域農業確立総合研究等でも要望が高い。
 以上の点から、本系統は、温暖地・暖地向け稲発酵粗飼料向け品種として普及・活用が期待されるため、命名登録申請する。


普及見込み地帯
関東以西の温暖地・暖地。


来歴
 関東飼215号は、平成3年に東京農工大学農学部作物学研究室において、少けつ・極穂重・強稈性の基礎試験材料養成を目標として、耐倒伏性極強の多収系統である中国117号を母とし、コシヒカリを父として人工交配を行って育成された系統である。平成4年、付属農場圃場でF1世代を、平成5年にF2世代を養成し、強稈性の2個体を個体選抜した。平成6年はF3を養成し、平成7年にF4を中国農試に移管して栽培、平成9年F5で農業研究センター稲育種研究室で単独系統に導入して、選抜を行った。以後、系統育種法にて選抜・固定をはかってきた。
 平成10年F6より「つ系1111」の系統番号を付し、生産力検定試験および特性検定試験に供試した。ホールクロップサイレージ等の利用に適する茎葉型飼料稲系統として優秀と判断したことから、平成14年でF10で「関東飼215号」の地方系統名を付し、関係府県に配付し、飼料用系統としての栽培試験に供試してきた。平成17年の世代はF13である。


形態的特性
 稈長は「はまさり」より13cm長く、「クサホナミ」より14cm長い“極長”である。穂長は「はまさり」、「クサホナミ」より長い“やや長”である。穂数は、「はまさり」、「クサホナミ」より少ない“少”である。草型は“茎葉型”である。着粒密度は「はまさり」と同程度の“中”である。芒は“中”程度にあり、“中”程度の長さの芒を生じる。ふ先色は“褐”、脱粒性は“難”である。葉身ならびに籾には毛茸がなく無毛性である。


生態的特性
 育成地における早植多肥栽培での出穂期は、「クサホナミ」より7日遅く、「はまさり」並の“極晩生”である。成熟期は登熟期間の短い「はまさり」より8日遅く、「クサホナミ」に比べて5日遅い。関東平坦部では、出穂期は“極晩生”に属する粳種である。
 乾物全重と風乾全重は、移植栽培・直播栽培で「はまさり」より11~19%高く、「クサホナミ」より高く、風乾全重では217kg/aである。精玄米重は、「はまさり」に比べ17~28%少なく、「クサホナミ」より25~40%少ない。屑米重は「クサホナミ」より多いが、「はまさり」と同程度である。籾重全重比は、「はまさり」より低く、「クサホナミ」より40%程度低く、「タカナリ」の半分以下であり、全重に占める茎葉比率が高い。面積当りのTDN収量は1.17トン/10aで多収であり、「関東飼215号」は茎葉型多収品種である。
 長稈ではあるものの稈が太く粗剛であり籾重が低いため、移植栽培での耐倒伏性は「クサホナミ」より強い“強”である。直播栽培では、「日本晴」より強い“やや強”である。いもち病真性抵抗性遺伝子はPia,Pikを保有すると推定される。葉いもち圃場抵抗性は、Pikを有する「タツミモチ」より強く“極強”である。穂いもち圃場抵抗性は“中”である。また、白葉枯病抵抗性は「はまさり」より強く、「クサホナミ」より弱い、“中”である。縞葉枯病には“罹病性”で、穂発芽性は“中”である。紋枯病抵抗性は、“強”である。


品質及び食味特性
 玄米品質は「はまさり」と同程度で、「クサホナミ」より著しく優れる。腹白、心白、乳白は、「はまさり」と同程度に少ない。光沢は「はまさり」と同程度で、色沢は「はまさり」より濃い。粒揃は「はまさり」と同程度で、粒大は「はまさり」よりやや大きい。玄米千粒重は「はまさり」より重く、「クサホナミ」より軽い“やや小”である。
 米飯食味は、標肥では、「キヌヒカリ」より粘りがあり、総合が同程度の良食味である。多肥栽培して、標肥の「コシヒカリ」と比べると劣るが、標肥の「日本晴」より優れる。
 ホールクロップサイレージの乾物中の可消化養分総量(TDN)含量は58%から62%で、「はまさり」「クサノホシ」と同程度である。ホールクロップサイレージの化学成分組成は「クサホナミ」と有意に異なる成分が無くほぼ同程度である。ホルスタイン去勢牛への給餌試験では、飼料摂取量は「クサホナミ」より多く、粗脂肪の消化率が「クサホナミ」より低いが、TDNは同程度である。乾物中の未消化籾排泄率が少なく「クサホナミ」の半分以下である。「関東飼215号」の籾重全重比が小さいため未消化籾排泄量が少ないと推定される。


配付しうる種子量
系統採種: 2kg
一般採種:10kg(平成16年採種)、25kg(平成15年採種)
合   計:37kg


栽培適地帯
関東以西の温暖地、暖地。


栽培上の注意
1)転び型耐倒伏性は“やや強”であるが、極多肥の直播栽培では、転び型倒伏が生じる場合がある。
2)縞葉枯病に罹病性であるので、常発地帯での作付けは避ける。
3)千粒重がやや軽いので、箱当りの播種量は一般品種よりやや少なめで、「はまさり」と同程度とする。
4)稈長が1m超えるので、ホールクロップサイレージ収穫時には、長稈品種の刈り取りに対応した収穫機を用いる。
5)移植栽培では、極多肥条件でTDN収量が大きいので、肥料または堆肥を十分に施用する。


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