西海186号の特記すべき特徴
 西海186号は,晩生,極良食味で倒伏に強い。


奨励品種に採用する理由
 九州地域における食味評価の高い品種は,極早生種では,コシヒカリ,キヌヒカリ,早生種ではミネアサヒ,中生種ではヒノヒカリ,農林22号が普及しているが,晩生種には無く,平坦地域の自主流通比率増大のため,平坦地に適する極良食味の強稈品種選定の要望が非常に強い。

1) 佐賀県:晩生種のレイホウは,醸造用自主流通以外は実需者の評価は低いので,西海186号を平坦地のレイホウの一部にかえて普及を図る。
2) 長崎県:平坦地の基幹品種の中生種シンレイは,流通評価はあまり良くなく,作付集中のため共乾施設利用に問題がある。県央を中心とする平坦地のシンレンの約半分にかえて普及を図る。
3) 熊本県:平坦地の中晩生種は,ミナミニシキと実需者に不評なミナミニシキに緊急代替したシンレイ,レイホウが作付されているが,流通評価は低いので,平坦地のミナミニシキ,レイホウの全部と一部にかえて普及を図る。
4) 大分県:瀬戸内・豊後水道沿海の平坦地の基幹品種トヨサチより更に良食味品種を流通上から強く要望されているので,この地域のトヨサチの大部分にかえて普及を図る。
5) 宮崎県:広域霧島・広域沿海地域の平坦地の普通期栽培晩生種,流通評価の低いミナミニシキ・ミズホの全部と,一部自主流通しているが評価が十分でないミナミヒカリの一部にかえて普及を図る。


普及見込み地帯及び対象品種(佐賀県)
ア. 普及見込み地帯及び面積
    佐賀平坦部の肥沃地    1,500ha
イ. 対照品種:レイホウの一部


普及見込み地帯及び対象品種(長崎県)
ア. 普及見込み地帯及び面積
    県央を中心とする平坦地   2,000ha
イ. 対照品種
    シンレイの一部


普及見込み地帯及び対象品種(熊本県)
ア. 普及見込み地帯及び面積
    平坦地域    8,400ha
イ. 対象品種
    ミナミニシキ,レイホウの全部とシンレイの一部


普及見込み地帯及び対象品種(大分県)
ア.普及見込み地帯および面積
   大分県瀬戸内・豊後水道沿海の平坦地 約4,800ha
イ.対照品種:トヨサチの大部分とニシホマレの全部


普及見込み地帯及び面積(宮崎県)
ア.普及見込み地帯および面積
    広域霧島及び広域沿岸地域の平坦地   約3,000ha
イ.対照品種:ミナミニシキ,ミズホの全部とミナミヒカリの一部


来歴
 「西海186号」は昭和57年9月,九州農業試験場において中晩生の極良食味,強稈品種の育成を目標として,極良食味の「コシヒカリ」を母とし,「ニシヒカリ/コシヒカリのF2集団の選抜個体」を父として交配を行なった。冬期にF1を養成し,58年度は温室栽培でF2~F3集団を養成し59年(F4)で個体選抜を行ない,60年(F5)より系統育種法によって選抜・固定を行なってきた。
 昭和61年(F6)から「九系503」の系統番号で生産力検定試験および特性検定試験に供試した。昭和62年(F7)以降「西海186号」の系統名で,関係機関において地方適応性を検討してきたもので,平成2年度は雑種第10代に当たる。


形態的特性
 稈長は「ミナミニシキ」よりやや長く「レイホウ」よりやや短い“やや短稈”で,穂長は「ミナミニシキ」「レイホウ」とほぼ同程度の “中”,穂数は「ミナミニシキ」「レイホウ」より少ない中間型の粳種である。葉色は「ミナミニシキ」より淡く“やや淡”,止葉の直立の程度は「ミナミニシキ」より垂れ“中”で,粒着密度は「ミナミニシキ」より密の“やや密”,芒は無く,ふ先色および頴色は“黄白”,脱粒性は「ミナミニシキ」程度の“やや易”である。


生態的特性
 出穂期は「ミナミニシキ」よりやや遅く,成熟期は年次間変動があるが平均してやや早く,育成地では“晩生の晩”に属する。高温多照年次昼「ミナミニシキ」より早く,晩生の早の「レイホウ」に近くなる。稈の太さは「ミナミニシキ」よりやや太い“中”で,稈の剛さは「ミナミニシキ」並の“中”で,耐倒伏性は「ミナミニシキ」とほぼ同程度の“強”である。
 いもち病抵抗性遺伝子型は“+”と推定され葉いもち圃場抵抗性は「ミナミニシキ」よりやや弱く「トヨサチ」並のやや弱である。穂いもちは「ミナミニシキ」よりやや弱く「ミナミヒカリ」並の“中”である。白葉枯病抵抗性品種群は金南風群に属し,圃場抵抗性は「ミナミニシキ」より強く,「レイホウ」並の“中”である。縞葉枯病には罹病性である。収量性は「ミナミニシキ」「レイホウ」よりやや低く「シンレイ」「トヨサチ」並である。


品質及び食味特性
 玄米の形状は“中”,粒大は“中”で「ミナミニシキ」並である。玄米千粒重は「ミナミニシキ」「レイホウ」よりやや軽い。玄米の色沢は「ミナミニシキ」よりやや濃い“やや濃”,光沢は「ミナミニシキ」並の“中”,腹白,心白は「ミナミニシキ」より少なく「トヨサチ」並の“極少”で,外観の品質は「ミナミニシキ」「レイホウ」より良く「トヨサチ」並の“上の下”である。胴割れ発生の難易は「ミナミニシキ」「レイホウ」より多く「ニシホマレ」程度である。搗精時間は「ミナミニシキ」「レイホウ」よりやや長く,搗精歩合,白米白度および胚芽残存歩合は「ミナミニシキ」「レイホウ」並の普通,食味は「ミナミニシキ」「レイホウ」「シンレイ」「トヨサチ」「ミナミヒカリ」より優り,コシヒカリ,ヒノヒカリ並の“上中”である。


佐賀県で西海186号を奨励品種に採用しようとする理由
 近年,米の生産県では自主流通米比率の拡大が渇望され,本県でも自主流通米としての需要が高い品種の作付推進により,本年は極早生の「コシヒカリ」と早生の「日本晴」の作付面積がそれぞれ3,300ha,8,200haと本県作付品種の9%,23%を占めるに至った。しかし,両品種とも倒伏の危険性が高く,作柄が不安定である。さらに,「日本晴」は自主流通米としての需要が少なくなってきている。そこで,「コシヒカリ」並の食味を持ち,作柄が安定する中晩生品種の普及が要望されている。このうち中生は昨年,平坦上部から山麓部向きに良食味品種「ヒノヒカリ」を奨励品種に採用したが,県下の作付面積の多くを占める平坦部の晩生品種には良食味の品種がない。
 「西海186号」は,出穂期,成熟期が「レイホウ」より2~3日ほど遅い,晩生のうるち種である。稈長は「レイホウ」よりやや短いやや短稈で,穂数はやや少ない中間型である。葉色はやや淡く,葉幅はやや広い。止葉の直立性は中である。頴色・ふ先色は黄白で,熟色はやや赤味を帯びる。粒着密度はやや密で脱粒性はやや易である。稈は「レイホウ」よりやや太く,強稈で耐倒伏性は「レイホウ」並の強である。いもち病の抵抗性は葉いもちにやや弱,穂いもちに中,白葉枯病に対する抵抗性は中とされている。玄米の形状は中形の中粒で,外観の品質はよい。収量は「レイホウ」並かやや劣るが,食味は「レイホウ」より明らかに勝り,「コシヒカリ」並の極良である。
 以上のように「西海186号」は出穂・成熟期がやや晩いものの,食味がよく,自主流通米としての需要が見込まれる。また,収量も「レイホウ」に比べ見劣りはしない。


長崎県で奨励品種に採用する理由
 長崎県の中生~晩生の奨励品種は,現在,シンレイ(4,245ha),レイホウ(555ha)が作付されている。レイホウは昭和50年には平坦地を中心に水稲作付面積の23%作付されていたが,栽培特性の面でシンレイに劣ることからシンレイを採用した昭和54年以降,急激に減少し,現在は平坦地に約600ha作付されている。主食用としての評価は低いが,醸造用かけ米としての実需者の評価は高く,現行作付面積は維持されると思われる。
 シンレイは短稈で栽培特性が優れていることから採用後急速に増加し,現在・県央の平坦地を中心に約4,200ha作付され,平坦地の大部分を占めている。しかし,実需者の評価はあまり良くなく,また単一品種の作付集中による刈り遅れによる品質低下もみられる。
 近年,消費者のうまい米への嗜好の高まりと共に,普通期水稲において,コシヒカリ級の極良食味品種の栽培が強く要望されている。これらを背景に,普通期栽培の平坦地帯にコシヒカリを作付する動向がみられている。しかしながら,コシヒカリは早期栽培水稲としての優点は非常に大きいが,普通期栽培では倒伏の問題があり,また裏作麦との関連でも問題がある。そこのため,平坦地向きの普通期水稲の良質・極良良味比種の導入が課題である。
 西海186号は,シンレイより晩生で,収量性はやや低いが,見かけの品質は良く,食味はシンレイより明らかに優り,コシヒカリに近い良質・極良食味品種である。また,栽培特性はシンレイよりやや劣るが,レイホウより優り,平坦地向き系統であると考えられ,共乾施設の利用拡大も期待される。
 以上のことから,県央の平坦地を中心にシンレイの一部にかわる品種として普及を図るため,奨励品種に採用したい。


熊本県が奨励品種に採用する理由
 本県においては,食味評価の高い品種として,極早生種はコシヒカリ(作付比率10.5%),早生種はミネアサヒ(同9.4%)があり,中生種はヒノヒカリが平成元年度より普及に移されている。晩生種には旭1号があるが,地域限定品種である。これら良食味品種は,本県では高冷地域から山麓平坦地の自主流通米地域に限り普及を図ることとなっている。
 昭和50年に,山麓準平坦地域の自主流通米銘柄品種として,ミナミニシキが奨励品種として採用された。この時点では2類銘柄で価格的に有利であった(現在は3類)ことや,収量性,耐肥性等の栽培特性が平坦地域での栽培に適していたことから,作付面積が拡大し昭和62年度には県全域の51.2%(約28,000ha)を占める作付規模となった。
 しかしながら,平坦地城への作付が拡大するにつれて,品質,食味の評価が次第に低下した。特に昭和61年産における籾枯細菌病の多発と,これに起因する茶米,腹白米,乳白米などによる品質,食味の低下が決定的な契機となり,ミナミニシキに対する取扱業者,消費者からの不満が大きくなり,売却不振銘柄として評価されるに至った。
 このようなことから,平成元年度はミナミニシキの代替として緊急的にシンレイ,レイホウを作付し,県産米評価の低下防止を図ったが,現在の良質,良食味指向の流通,消費状況の中では根本的な改善策とはなりえず,また今後の自主流通米比率引き上げを図るうえでも,平坦地域に適した晩生の良食味品種の存在が不可欠なものとなっている。
 西海186号はミナミニシキ級の晩生に属し,稈長はミナミニシキよりやや高い,やや短稈中間型系統で,倒伏にはミナミニシキ程度で強い。収量性は平坦地域ではミナミニシキと同程度で,レイホウ,シンレイよりやや優る。良質で,食味はミナミニシキ,シンレイより明らかに優り,ヒノヒカリに近い極良食味である。
 以上のことから,西海186号を平坦地城のミナミニシキ,レイホウの全部とシンレイの一部にかわる品種として奨励品種に採用したい。


大分県において西海186号を奨励品種に採用する理由
 大分県における平成元年度の水稲作付面積は33,200haで,そのうち標高100m以下の平坦地は,瀬戸内,豊後水道沿海を主体に約14,000haである。平坦地の熟期別作付面積割合は晩生種52%,中生種13%,早生~極早生種35%であり,晩生種は99%をトヨサチが占めている。 
 トヨサチは本県の銘柄品種クジュウ並みの食味特性を持つことから,ニシホマレの食味改良をはかるために昭和62年から普及推進し,現在晩生種の主力品種となっている。しかし,トヨサチを奨励品種に採用後の流通上の情勢はますます良食味品種,それもコシヒカリタイプの味もコシヒカリに匹敵する品種が求められるようになり,クジュウ並みの食味では不十分となってきた。このようなことから,トヨサチにかわるコシヒカリに匹敵する良食味品種の選定が強く望まれているところである。
 西海186号は,出穂期はトヨサチより2~3日遅いが登熟速度が早いので成熟期はトヨサチ並みであり,やや短稈の部類に属し倒伏に強い。収量,品質,いもち病耐病性もトヨサチ並みである。食味はクジュウに優り,トヨサチよりかなり優る。早期のコシヒカリよりも優る傾向にあり,トヨサチの食味改良に充分貢献すると期待される。
 したがって,西海186号を瀬戸内,豊後水道沿海の平坦地向き晩生良食味品種として,この地域のトヨサチの約70%,ニシホマレの全部を対象に奨励品種に採用したい。


宮崎県で西海186号を奨励品種に採用しようとする理由
 宮崎県に於ける平成元年度の水稲作付面積は27,000haで,そのうち早期栽培が12,400ha(46%),普通期栽培は14,600ha(54%)である。そのうち普通期栽培用粳種の作付面積は広域霧島地域及び広域沿海地域で,ミナミニシキ1,240ha,ミナミヒカリ6,320ha,ミズホ290haの計7,850haである。
 「ミナミニシキ」「ミズホ」は栽培特性は優れているが,食味が不充分なため,流通評価は低く,平成元年より4類に格下げされた。
 一方「ミナミヒカリ」は一部自主流通米として流通しているが,品質は良好であるが食味評価が不充分なため,これらに替りうる良食味品種の選定が望まれていた。
 「西海186号」はミナミヒカリ,ミナミニシキに比べ,やや早熟の晩生種で,いもち病耐病性はミナミヒカリ程度である。収量性は不充分であるが,強稈,良質でコシヒカリ並の極良食味系統であるため,中生種の「ヒノヒカリ」と共に普通期水稲地帯の県産米としての銘柄確立が期待出来ることから,広域霧島地域及び広域沿海地域の平坦地を対象に「ミナミニシキ」「ミズホ」の全部と「ミナミヒカリ」の一部に替えて奨励品種に採用したい。


配付しうる種子量
系統採種     16kg
採  種     100kg


栽培適地および奨励品種採用予定県
1. 適  地
 暖地の平坦および平坦肥沃地に適する。
2. 奨励品種採用予定県および普及見込面積
 佐賀県 1,500ha
 長崎県 2,000ha
 熊本県 8,400ha
 大分県 4,800ha
 宮崎県 3,000ha     合計19,700ha


栽培上の注意
1. 葉色はやや淡く,止葉の立性は中位であり,過度の施肥は過繁茂になるので肥培管理に留意する。
2. 刈遅れによる茶米や胴割米の発生により,品質低下が懸念されるので,適期刈取を励行する。
3. 晩生であるので晩植は避ける。北部九州ではやや早植,中・成苗植とする。
4. いもち病抵抗性は葉いもちにやや弱,穂いもちに中程度であるので適期防除に留意する。
5. 縞葉枯病には罹病性であるので,防除に留意する。


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