序
 東北地方における農作物凶作防止の一対策として本省においては昭和10年より東北6県地方農事試験場を指定して経費の全額を交付し、本省農事試験場を枢軸として相互に密接なる連絡を保ちつつ水稲その他作物の適良新品種育成並びに栽培法改善に関する試験施行し、更に当該地方農事試験場をしてこれが地方的適否を確むるため試作地を設置せしむるの組織を採れり。
 その内適良新品種の育成に関しては本省農事試験場において基礎的研究を行うと共に多数の人工交配を行い且つ雑種初期世代の処理をなし、その有望と認むる雑種を東北6県地方農事試験場における凶作防止試験地に配付し、右試験地においてはこれが地方的適応性の検定に関する試験を行いつつ固定を図り、さらにこれを当該地方農事試験場における凶作防止試作地に移してその適良なるを確め、かくして育成したる新品種に対しては本省において新たなる名称を付することとせり。
 しかして本組織により昭和15年3月、岩手県立農事試験場における本省指定の凶作防止試験地たる遠野試験地において適良新品種「水稲遠野2号」の育成を見たるをもって、その特性並びに成績の概要を印刷に付することとせり。
 
 昭和16年3月 農林省農政局


来歴及び選抜経過
 「水稲遠野2号」は昭和7年農林省農事試験場鴻巣試験地において「農林1号」を母とし「庄内早生」を父として交配を行い、昭和10年岩手県立農事試験場遠野試験地(農林省指定凶作防止試験地)の創設と同時にその雑種第3代種子の配付を受け、以来同試験地の系統育成試験に供試し育成選抜を行えり。しかして昭和13年「遠系3号」なる新系統名を付し、同年より岩手県下の凶作防止試作地に試作せしめその適応地域を確かめ、昭和15年3月「水稲遠野2号」なる品種名を付せるものなり。
 これが育成経過の概要次の如し。


特性の概評
 「水稲遠野2号」は粳にして、出穂の時期は在来種の「六日早稲」に比し稍々晩きも成熟の時期は稍々早く岩手県下においては中生種に属す。稈長は「六日早稲」より稍々短く、分蘖は極めて多し。極端なる冷水における出穂の遅延は「六日早稲」より稍々大なれ共、水温の高低による出穂の時期並びに収量の変異少なく、冷水に対する抵抗性は「六日早稲」よりは相当強きものの如く、在来種の「関山2号」と略々同程度のものの如し。稲熱病に対する耐病性特に強しとは認められざるも「六日早稲」よりは相当強し。収量は「六日早稲」及び「関山2号」に比し相当多く、且つ品質食味佳良にして岩手県下各地の「六日早稲」及び「関山2号」を中生ないしは晩生として栽培する山間早冷地帯の好適品種と認めらるるものなり。


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